弁護士業務、法律に関することなど、あれこれ綴っています。

1月2014

破産と免責

弁護士をしていると、個人の方から「破産して借金をチャラにしたいんです。」という相談を受けることがあります。

正しいこの質問に対する法的な回答は「×」なのです。破産法では、「破産」することと(破産法18条)、いわゆる借金チャラ「免責」とは別の手続とされており(破産法248条)、破産しても免責できない場合についての規定もあります(免責不許可事由・破産法252条)。つまり、破産申立てをしたけれども、借金はチャラにならないという場合があり得るのです。

もっとも、現在の運用において、破産したけど免責にならないというケースは稀です。破産は、債務を負った人の経済的な再出発を図る制度ですから、破産した個人に免責を認めないと破産制度を設けた意味がなくなるからです。

では、免責の決定がなされるとどんな債務でもチャラになるのでしょうか。この答えも「×」です(破産法253条)。例えば、車を運転していて赤信号を無視したら、青信号で横断中の人をはねてしまった場合、そのはねられた人の損害賠償請求権が免責になって一切支払わなくてよいという結論が不当であることは誰の目にも明らかでしょう。罰金や税金を支払えないからといって、免責されてしまうのであれば、社会の公平は保たれません。

結局、「破産すれば、借金はチャラ」という結論は、概ね正解ですが、不正義な場合、必ずしもそうではないのです。弁護士をしていると、破産する方の代理人、破産管財人、破産する方の取引先の代理人等、様々な場面で破産をみることになります。弁護士としては、どの立場に立つかで視点は変わりますが、基本的な公平を保ちつつ仕事をしていきたいものです。

民法上の時効

強盗罪は7年、殺人罪は時効なし等、犯罪行為について公訴時効があることは、よく知られています。

ところが、法律相談などで「その請求は時効ですよ。」というと多くの方が「民事に時効があるのですか!?」と驚かれることがたびたびあり、民事に時効があることは、案外知られていない様に思います。

民事の時効(ここでは民法上の時効に限ります。)には、取得時効と消滅時効があります。

取得時効とは、一定の要件の下、10年又は20年間、他人の物を占有した人には、その物の所有権が発生するという制度です(民法162条)。隣地との所有権の境界を間違えて、隣地の人の土地の一部も自分の土地と思って塀を立てて自宅土地として使っていたような場合が典型的です。これに対し、賃貸マンションを借りていて10年又は20年の間、占有したとしても、もちろん自分の物にはなりません。借りている物は、あくまで借りている物です。

消滅時効とは、債権について認められるもので、一般的には10年で時効になり、債務者が時効を主張すれば、その債権は時効によって消滅して、それ以後、請求できなくなります(民法166条、145条)。つまり、お金を貸した人は10年経つと「返せ!」とは言えなくなる(可能性がある)のです。逆に、すっかりと忘れていた10年以上前の債務が出てきても「もう時効だから返さない。」と言えば、通ることになります。

もちろん、例外はたくさんあります。そもそも交通事故などの不法行為の損害賠償請求権は、加害者及び損害を知った時から3年(民法724条)、売掛債権は2年(民法173条1号)等、期間自体に例外が多いのです。また、債務を負っていることを認めたり、裁判されて請求されるなどすれば、再度10年経たなければ時効にならない中断といわれる制度もあります(民法147条)。

その他いろいろ、時効には例外が多く、細かい規定も多いので、本当に時効が成立しているかどうかは、弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。