弁護士業務、法律に関することなど、あれこれ綴っています。

交通事故

交通事故(物損)の損害②

前回のブログでは、いきなりマニアックな話になってしまいましたので、今回はよく出てくる、修理費と時価の関係について書かせていただきます。

例えば、交通事故で壊れた車が、新車価格200万円、現在の中古車市場での売値120万円、買値80万円、修理費が100万円とした場合、車両自体の損害として、どの金額が認められるのでしょうか。

答えは、修理費である100万円です。

基本的に物損事故の場合、車両自体の損害は、修理費と時価のいずれか安い方とされています。これは、物が壊れたらその値打ち、すなわち時価を所有者に賠償するのが原則です。しかし、車の場合、修理して乗るというのが社会的に常識とされていることから、時価よりも修理費が安い場合には修理代を賠償することとされているのです。また、修理費が、新たに同形式、同年式の車が買える値段を超えて修理する人は、通常いませんから、修理費が中古車市場の売値を超える場合には、売値が損害額となるのです。

弁護士をしていると「車を元に戻してくれたらええんや!」という人がいますが、法的に請求できる上限は、上記のとおり、修理費と時価のいずれか安い方となるのです。

 

交通事故(物損)の損害①

物損の交通事故では、どのような費目について損害賠償請求できるのでしょうか。

一番重要なのは、車の損傷の修理費でしょう。通常の流れですと、被害者が車を修理工場に持ち込んで、加害者の損害保険会社の方が車の修理個所等をチェックして、それによって成立した合意内容で修理がおこなわれます。そして、修理費は、示談した過失割合に基づいて加害者の損害保険会社が支払います。

このように書けば、ほとんどの方が何の問題もないように思われることでしょう。ところが、弁護士として相談を受けてみると、意外に多くの問題があることが分かります。

修理費を巡って一番多い生じる問題は、「壊れた部品を交換しても完全に元に戻らない!」というものです。被害者の立場からは、①一カ所だけ部品を替えると色が合わないではないか、加害者の立場からは、②もっと安い修理工場があるのに何故ディラーに修理させるのか等々。

①については、新しい部品を付けた所と元通りの所の境が分からないように修理工場で色合わせを行います。もちろん、よく見ると分かるのですが、そもそも絶対に修理したと分からないレベルまで色を合わせようとすると、車の色を全部塗り替えなければなりません(全塗装といいます。)。しかし、車として通常使用するために、そこまですることが社会常識に適うのでしょうか。物理的な損傷は修理しないと安全に関わりますが、色は一見して色が違うと分からないレベルであれば、運転していて恥ずかしいということはありません。逆に、わずかな傷のために全塗装をするのであれば、賠償するべき損害賠償額がいたずらに大きくなってしまい、保険料が上がることは必至です。とすれば、原則として、全塗装はしない方が社会常識に適うというべきでしょう。現に裁判をしても、全塗装が認められることは、原則としてありません。

②については、被害者が修理に出す時に自分が信頼する修理工場に車を持ち込むのは当然で、加害者から○○なら修理費が安いのだから、それ以上は支払わない等ということはできません。仮に、被害者が不当な高額請求をする修理工場に車を持ち込んだ場合、加害者の保険会社が適正な価格になるよう交渉します。

問題が生じることの多い物損事故の損害について、まとめようと思いましたが、第1回目からいきなり細かい問題に入ってしまいました。次回は、経済的全損(時価全損)や評価損の問題などの大きな問題を取り上げたいと思います。